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ディベートの実践例~アメリカでの九州大学の研修~ [レポート Report]

ディベートの実践例~アメリカでの九州大学の研修~

去る3月20日と21日の2日間にわたって、日本の大学からアメリカに研修に来ている学部学生たちに「ディベート実践」の授業を行った。
今回、学生のグループは九州大学工学部の1年生から3年生までの学生34人で、
サンフランシスコ近郊のシリコンバレーにある九州大学カリフォルニアオフィスでの5週間の海外研修の一環として、今年初めて実験的に「ディベート」を取り入れたもの。最初の4週間で英語を中心とする研修プログラムを終了した後に、最後の1週間の「実践・応用編」として実施された。2日間をかけたのは、1日目は日本語で、2日目は英語でディベートを行うためであった。

まずその授業の様子については、以下の写真入りのブログ記事を参照:
「シリコンバレーでの日本人学生のディベート実践」
http://miyao-blog.blog.so-net.ne.jp/2017-03-22

ここで、ディベートのイシュー(論点)としては、工学部の学生たちが興味を持ちそうな「人工知能」と「原発」についてそれぞれ賛否を取り上げた。予め学生たち自身の意見をアンケート調査した結果、両イシューとも概ね賛否半ばで、学生たちの賛成(推進)派と反対(慎重)派へのグループ分けもスムーズに行うことができた。
さらに、ディベートのやり方については、ビデオ「ディベートの手引き」(https://youtu.be/4V9tlXwtypo)にある通りで、それを学生たちに予め見ておくように指示して説明の時間を節約したが、問題は短期間で34人の学生たちのすべてに均等にディベートの経験をさせることであった。
つまり、通常は小規模のクラスで、それぞれの立場を壇上で主張する「ディベータ―」が賛成派と反対派からそれぞれ2~3人で、残りの学生は聴衆(オーディエンス)となるが、それでは34人の学生すべてがディベータ―の経験をすることができない。そこで今回は、第1の「人工知能」のイシューでは、それぞれの派から8名がディベータ―となり、残りの18名がオーディエンスとなる。また第2の「原発」のイシューでは、その18名が今度はそれぞれの派からの9名のディベータ―となり、前のイシューのディベータ―たち16名がオーディエンス側に回るという工夫を凝らした。

このような形で、1日目は日本語で、2日目は英語でディベートを実施し、それぞれのディベートで終了後に全員にアンケートを実施して、自分の意見がディベートによってどの程度影響されたか、また誰がベストなディベータ―だったかを選ばせ、また何でも気づいたこと、意見などを表明できるようにした。
そこでの注意点は、日本でありがちなグループディスカッションではないので、どちらの派が勝ったかといったグループの評価ではなく、誰がもっとも論理的で説得的な議論を展開したかという「ベスト・ディベータ―」を選ばせるという方法で個人の評価を重視することである。これがディベート対抗合戦ではなく、大学教育で個人を鍛える欧米的なやり方といえる。
またそれに関連する注意点としては、日本語でも英語でもそれぞれのディベータ―が自分の意見を述べる際に、準備してきたメモの文章を読み上げるのではなく、反対派やオーディエンスの顔を見てジェスチャーなどを交えて自己主張をすることで、プレゼンの訓練になるということである。

最後に実施してみて感じた点として、日本の学生たちは、まず相手が何を言っているかよく理解してから自分の意見を述べようとする傾向が強く、すぐ相手の意見の詳細をただす質問で時間を浪費しがちであるが(「意見がかみ合うように」というのが日本人学生の口癖)、それよりは相手の意見を自分なりに理解した上で、基本は自分の意見をいかにきちんと述べて主張するかに重点を置く必要がある。この段階でのディベートでは、意見がかみ合っているかどうかは第三者が判断すればよく、その点で担当教員の議論の整理・進行の役割が重要であるといえよう。
ぜひ日本でも高校レベルからこのようなディベートの実践を取り入れることを勧めるものである。

宮尾尊弘(筑波大学名誉教授、南カリフォルニア客員教授)

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